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マルティン・スビメンディのプレースタイル徹底解説|アーセナルが託した"現代型アンカー"の真価

ツバサ

マルティン・スビメンディは、レアル・ソシエダで培った戦術的知性と安定感を武器に、今夏ついにアーセナルへ渡った。

大きな話題を呼んだ移籍の背景には、彼が「現代型アンカー」として評価される理由がある。派手さはないが、試合を読む力とポジショニングでチームを支配し、攻守における土台を築く存在だ。

本記事では、スビメンディのプレースタイルを戦術的・統計的に掘り下げ、その真価を明らかにしていく。

スビメンディ|基本情報

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Pablo Martín Páez Gaviraの基本情報

スビメンディ|経歴

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🖥️マルティン・スビメンディの経歴

スビメンディ|プレースタイル

一見すると堅実なアンカー。しかしその実、スビメンディは安定した守備と緻密なゲームメイク、そして隠れた創造性を兼ね備えた稀有な存在である。

ここからは彼のプレースタイルを多角的に検証していく。

リスクを最小限に抑えるゲームメイク

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スビメンディの特徴は、リスクを最小限に抑えながら試合を整えるゲーム管理にある。

無理な縦パスで一気に局面を変えるのではなく、水の流れを調整するように安全で確実なルートを選び、ボールを前へと運ぶ。

テンポを落ち着かせたい場面では一呼吸置き、加速が必要な場面では素早いワンタッチでリズムを変える。その冷静さが彼の真骨頂である。

2024/25シーズンのラ・リーガでは、1,752本のパスを記録し、その成功率は約88%。さらに、**最終エリアへの進入パス成功率は89.3%**と高水準で、ボールを失わずに前進を積み重ねる点で大きな信頼を得ている。

彼のプレーはまるで指揮者のようにチーム全体をハーモニーで包み込む。無駄な音を出さず、リスクを避けながら試合を進めていく。

ただし、大胆なスルーパスや試合を一変させる冒険は少ない。その慎重さが攻撃の迫力を削ぐ場面もある。

それでも、**「乱さず、崩さず、着実に進める」**という哲学はチームに安定をもたらし、攻撃の土台を築いているのである。

相手の選択肢を封じる構造的な守備

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スビメンディの守備の核心は、**相手の自由を奪う「構造的な制限」**にある。

彼は激しいタックルで奪うタイプではなく、ポジショニングで相手の選択肢を狭め、危険なコースを封じることでチーム全体の守備を安定させる。

相手ボランチへの縦パスに対して半身で立ち、受け手に前を向かせずサイドや後方への消極的なパスを強いる場面はその典型である。

2024/25シーズンのラ・リーガでは、1試合平均7.9回のボール回収と1.6回のインターセプトを記録し、数字の上でも“読んで奪う”守備が際立つ(FootyStats)。

さらに、無理に飛び込まずゾーンを維持し、周囲と連動して相手を追い込むため、チーム全体がコンパクトさを保ちやすい。

海外メディアも「彼はボールを奪うというよりも、相手の攻撃を最初から窒息させる」と評しており、そのアプローチは現代的なアンカー像に直結する。

ブスケツが空間認知で相手を消し、ロドリがフィジカルと機動力で中央を固めるのに対し、スビメンディは相手の進路を塞ぎ“消耗させる”守備でチームを助ける。

結果として彼の存在は、目立たぬままに相手の攻撃を分断し、ソシエダの守備ブロック全体を機能的に保つ要となっているのである。

卓越した戦術眼と優れたプレービジョン

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スビメンディの特徴を語るうえで欠かせないのが、卓越した戦術眼と優れたプレービジョンである。

彼はボールを持つ前から周囲の状況を把握し、まるで次の一手をあらかじめ知っているかのように最適な選択肢を導き出す。味方と相手の位置関係を常にスキャンし、プレッシャーを受けても慌てない姿は、盤面全体を俯瞰するチェスの名手を思わせる。

2024/25シーズンのラ・リーガでは、総パス数1,752本、成功率88%を記録。そのうち約31%が前方へのパスで、数字は彼がただ安全に回すのではなく、相手守備を外しながらリズムを前へ進めていることを物語っている。

さらに、1試合平均6本以上のプログレッシブパスを通しており、後方から攻撃の推進力を絶やさない。

特筆すべきは、判断の速さとパスの簡潔さを両立している点で、海外メディアは「余計なタッチを省き、相手の動きを読むことで一瞬早く局面を制する」と評している。

ブスケツが空間の魔術師なら、ロドリは力強い支配者。そしてスビメンディは、静かに全体を設計図通りに動かす建築家のような存在だ。その戦術眼とプレービジョンこそが、彼を単なる守備的MFではなく、試合の流れを設計する知的なピボーテへと押し上げているのである。

スビメンディの隠れた課題とは?

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スビメンディは中盤に安定をもたらす存在だが、その一方で弱点も明確である。まず挙げられるのはフィジカル面の限界だ。身長182cmとサイズはあるものの、プレミアリーグの強度ではロドリやライスのような圧倒的な存在感には及ばない。デュエルで押し込まれる場面や、広大なスペースを一人でカバーする状況では脆さを見せることがある。

次に指摘されるのがスピード不足である。スプリント力や切り返しの速さは平均的で、トランジションの局面では後手に回る場面が目立つ。特に縦に速い展開を仕掛けてくるプレミアの中堅以下のチームに対しては、広いエリアをカバーする力に課題が残る。

また、彼の配球は正確で安定しているが、リスクを最小化する傾向が強い。そのため、試合を落ち着かせる力には優れる一方、攻撃を一気に加速させる縦パスや大胆な展開力には物足りなさがある。チームが得点を急ぐ場面では、やや慎重すぎる選択がマイナスに働くこともある。

さらに、個人で試合を決定づける力には欠ける。シュートやドリブルで状況を打開するタイプではなく、影響力はあくまで「整理・安定」に限定される。ラ・リーガでは通用してきたが、プレミアリーグの強度とスピードに適応できるかは今後の大きな試練となるだろう。

アーセナル移籍の経緯

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マルティン・ズビメンディのアーセナル移籍は、契約解除条項の存在が決定打となった。

レアル・ソシエダで中盤の要として評価を高めてきた彼には、以前から複数クラブが関心を寄せていたが、アーセナルは2025年夏の補強戦略において守備的MFの獲得を最優先と位置づけ、契約解除条項である約5100万ポンドを支払う選択を下した。

交渉は複雑な駆け引きを避ける形で進められ、条項発動によってソシエダ側は留意できず、6月時点で事実上の合意が成立していた。

正式発表は7月初旬。ズビメンディは長期契約を結び、ロンドンで新たなキャリアをスタートさせた。

背景にはジョルジーニョやパルティら既存主力の去就不透明があり、アルテタ監督が望む「戦術理解と安定感を兼ね備えたアンカー」という条件に合致したことが決め手となった。

スペイン代表での実績も加味され、アーセナルは中盤の核としてズビメンディを迎え入れるに至った。

スビメンディ|エピソード

ここからはスビメンディの私生活もしくは個人的なエピソードを紹介する。

🎯 ボールに触れないと落ち着かない

El País のインタビューでスビメンディは「試合が始まってもボールを触れないと、少し緊張する」と語っている。彼にとってボールに触れることは、単なるプレーの一部ではなく精神的な安定剤のようなもの。冷静に見える彼の内側に、実は繊細で人間的な一面があることが垣間見える。

🍣 寿司好き、夕焼けを見るのが趣味

OKDIARIO のテスト形式インタビューでは、意外な素顔も明らかになった。好きな食べ物は寿司、そして趣味は夕焼けを眺めること。タトゥーは「身体を大事にしたい」から入れないと答える一方で、髪を金髪に染める遊び心も見せる。サン・セバスティアンの街を愛し、心を落ち着ける場所だと語るなど、地元愛の強さも伝わってくる。

✈️ 移籍を決断した理由

レアル・ソシエダを離れる決断については、La Razón のインタビューで「アルテタのプロジェクトが最も自分に合っていた」と語っている。単なるステップアップではなく、戦術的に自分を生かせる環境を選んだという誠実さは、彼の価値観をよく表している。

♟ 幼少期の遊びとメンタル形成

幼い頃はチェスを好み、11歳の頃には地元でアレヴィン年代のチェス大会で優勝したこともあるという。チェスを通じて「先を読む力」「ミスが許されない局面で集中する力」を養ったことを、彼自身が「中盤での判断と似ている」と語っている。

父は体育教師、母も教師

Zubimendi は中流家庭に育ち、父親が体育の教員母親も教員であったと報じられている。彼自身が後に「親の影響」でスポーツ・教育に関心を持ったと公言しており、家庭の価値観が彼の基盤になっている。

静かな支配者としての現在地

スビメンディは、中盤をデザインする力を基盤に試合の秩序を整える存在である。数値が示す安定したパス成功率とボールロストの少なさは、彼のゲームメイクを支える根拠であり、その一貫性は90分を通して揺らがない。

フィジカルやスピード面での制約、攻撃面での限定性といった課題は残るが、それを補うだけの戦術理解と冷静な状況判断が備わっている。アルテタが中盤の要として信頼を寄せるのは、まさにこの安定性ゆえである。

教育者の家庭に育ち、学びと規律を重んじてきた背景や、チェスで磨いた先読みの感覚は、彼の落ち着きと秩序を重視するプレースタイルに直結している。

派手な存在感ではなく、静かな支配によってチームを成立させる現代型ピボーテ。その現在地は、アーセナルとスペイン代表の未来を左右する鍵のひとつになろうとしている。

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